銀座駅に着いたのは8時10分前。
閉店まであとわずか。
人混みに埋もれたエスカレーターを俺は急いだ。
一番改札に近い先頭車両の一番前に乗っていた俺は最短ルートだ。
改札を出る。
一番近い百貨店。それはこれまでの経験上三越だってのはわかってる。
家路につくサラリーマンを尻目におれは急いだ。
三越に入ったのは閉店5分前。
大丈夫だ。まだ獲物(弁当)はある。
残った時間、ゆっくり吟味すればいい。
しかし、そんな想いとは裏腹に、いつしか俺の脚は早足から小走りに変化していた。
一周、二周、俺は売り場を回った。
おかしい、無い、無いぞ。
お目当ての500円ほどに値下がりした弁当が無いのだ。
いや、それどころか700円クラスのものさえ見当たらない。
まだ早かったのか?
いや、それは無い。
既に閉店を知らせるアナウンスが流れている。
他の客も帰りはじめているではないか。
ちくしょう。どこだ。どこにある?
もしかしてこのまま完全に閉店しても見つからないんじゃないのか。
焦りが募る。
このままだと晩飯抜き。そんな思いが頭をよぎった。
そんなときだ。目の前に見覚えのある文字が飛び込んできたのは。
今半。
言わずと知れた、浅草にあるすき焼きの名店だ。
もういい、これにしてしまえ。
心のどこかで弱い俺が叫んだ。
葛藤する余地もなく、俺は牛肉弁当を差し出していた。
「1050円になります」
店員の声で我に帰る。
なんてこった。まったく値引きされていないじゃないか。
いや、それどころか、それだけ出せば地元の定食屋で腹いっぱい食える。
しかし、いまさらここまできて引き下がることはできない。
俺は笑顔で金を渡す。
もちろんつり銭など無い。ちょうどで渡したのだ。
なぜかすがすがしい俺。
気分が落ち着いてきたところでゆっくりもう一周回ってみよう。
そんなときだ。俺の目に飛び込んできたのは。
600円。
炭焼き地鶏弁当。
ボリューム的には今半の牛肉弁当と変わらない。
否、牛肉と地鶏の差があるとはいえ、地鶏のほうが肉が多いのではないだろうか。
ちくしょう。俺としたことが。
なぜもう一周しなかったんだ。
否、もう一周したところで結果は同じだっただろう。
焦りに曇った俺の目には地味な地鶏弁当なんて写らなかったに違いない。
俺は地味な敗北感を味わいながら牛肉弁当を片手に家路についた。
そうだ、次は逆周りに回ってみよう。いや、もう少しペースを落とすべきだ。チャイムが鳴ってからのロスタイムはかなり長い。
こうして俺はまた一つ、一人前の兵士(主婦)へと近づいたのであった。
閉店まであとわずか。
人混みに埋もれたエスカレーターを俺は急いだ。
一番改札に近い先頭車両の一番前に乗っていた俺は最短ルートだ。
改札を出る。
一番近い百貨店。それはこれまでの経験上三越だってのはわかってる。
家路につくサラリーマンを尻目におれは急いだ。
三越に入ったのは閉店5分前。
大丈夫だ。まだ獲物(弁当)はある。
残った時間、ゆっくり吟味すればいい。
しかし、そんな想いとは裏腹に、いつしか俺の脚は早足から小走りに変化していた。
一周、二周、俺は売り場を回った。
おかしい、無い、無いぞ。
お目当ての500円ほどに値下がりした弁当が無いのだ。
いや、それどころか700円クラスのものさえ見当たらない。
まだ早かったのか?
いや、それは無い。
既に閉店を知らせるアナウンスが流れている。
他の客も帰りはじめているではないか。
ちくしょう。どこだ。どこにある?
もしかしてこのまま完全に閉店しても見つからないんじゃないのか。
焦りが募る。
このままだと晩飯抜き。そんな思いが頭をよぎった。
そんなときだ。目の前に見覚えのある文字が飛び込んできたのは。
今半。
言わずと知れた、浅草にあるすき焼きの名店だ。
もういい、これにしてしまえ。
心のどこかで弱い俺が叫んだ。
葛藤する余地もなく、俺は牛肉弁当を差し出していた。
「1050円になります」
店員の声で我に帰る。
なんてこった。まったく値引きされていないじゃないか。
いや、それどころか、それだけ出せば地元の定食屋で腹いっぱい食える。
しかし、いまさらここまできて引き下がることはできない。
俺は笑顔で金を渡す。
もちろんつり銭など無い。ちょうどで渡したのだ。
なぜかすがすがしい俺。
気分が落ち着いてきたところでゆっくりもう一周回ってみよう。
そんなときだ。俺の目に飛び込んできたのは。
600円。
炭焼き地鶏弁当。
ボリューム的には今半の牛肉弁当と変わらない。
否、牛肉と地鶏の差があるとはいえ、地鶏のほうが肉が多いのではないだろうか。
ちくしょう。俺としたことが。
なぜもう一周しなかったんだ。
否、もう一周したところで結果は同じだっただろう。
焦りに曇った俺の目には地味な地鶏弁当なんて写らなかったに違いない。
俺は地味な敗北感を味わいながら牛肉弁当を片手に家路についた。
そうだ、次は逆周りに回ってみよう。いや、もう少しペースを落とすべきだ。チャイムが鳴ってからのロスタイムはかなり長い。
こうして俺はまた一つ、一人前の兵士(主婦)へと近づいたのであった。